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No.
11

喫茶&軽食「リバティールーム カーナ」
店主岡本 美治さん
取材日 : 2025年2月4日

[ 写真:岡本さん ]

神戸市須磨区で震災前から地域の方々に愛されている喫茶店「リバティールーム カーナ」。店主である岡本さんは喫茶店を営む傍ら、積極的に地域の防災活動に取り組んでおられます。今回はそんな岡本さんに震災当時のことや地域での活動についてお話を伺いました。

震災当時の状況

震災当時の様子を教えてください。

岡本さん:震災当日の朝5時46分は東須磨にある自宅で寝ており、天井の照明が落ちてきて目を覚ましました。家族の安全を確認した後、寺田町にある喫茶店が心配だったので、店まで歩いて向かったのですが、店は地震で傾いており入り口のシャッターがずれてしまって、店内に入ることができない状況でした。その日は諦めて、そのまま自宅に帰り、私は半壊となった自宅の片づけ等を行っていました。自宅の周りに住んでいる人たちはほとんど避難所に避難していたのですが、自宅には暖をとるための炭や練炭、灯油や、灯りとしての懐中電灯、ローソクを常備していたので、私達は避難場所には行かずに家で過ごすことにしました。そうしていると、近所のマンションに住む学生が家の灯りを見て一緒にいても良いかと訪ねてこられ、気が付けば18人の学生さんたちを含む大家族で一緒に生活することになりました。1~2週間は一緒に過ごしたと思います。

食べ物や水はどうしましたか。

岡本さん:幸い十分に備えていましたし、水はそれぞれの自宅から、持って来れるだけ持って来てもらいました。家には火鉢もあったので、火を焚いて暖を取っていました。地震に対する知識があったわけではありませんが、困ったときにどうすれば良いか、自然と皆で考えて助け合いながら動いていましたね。

喫茶店を再開できたのはいつ頃でしたか?

岡本さん:地震が起きてしばらくは、自宅から店に電話をかけても通じていましたが、次第に電話がつながらなくなりました。長田からの火事が広まっていって、震災当日の晩には店が燃えてしまったんです。大田町の交差点からこの店くらいまでは焼け野原になっており、近くに入ることもできませんでした。地震から1週間くらい経って、やっと店のある場所に立ち入ることができましたが、焼け跡になっていましたので、様子を見に来た人々から、今いる場所が何町なのか、区役所はどこなのか等をよく聞かれました。そこで、店の跡地に立って、そういった方々の案内の役割をしていました。その時に自分にもっとできることはないかと考え、「私はコーヒー屋さんをしているのだからコーヒーを配ろう」と思ったんです。インスタントコーヒーや水を業者の方に発注して、カセットコンロで湯を沸かして、通りがかる皆さんにコーヒーを配りました。何もない時でしたので、温かい1杯のコーヒーがすごくおいしかったと言っていただけました。そうしているうちに、座るところもないからと、近所の方が椅子や机を持って来てくださり、ゆっくり皆さんでコーヒーを飲むことができるようになりました。一日100杯以上は配っていましたね。何も目印がないからと言って、近所の方がビーチパラソルを持ってきてくれたり、コーヒーを飲みに来た方からも砂糖や水等をいただいたり、皆さんの親切が本当にうれしかったです。

震災前からそういった地域の方々との交流は活発だったのでしょうか。

岡本さん:店のオープンから8年目に震災が起きたのですが、その前も、東須磨自治会や婦人会、子ども会の役員をしたりと、いろんな地域活動をしていたので交流は多かったように思います。コーヒーを配っているときは皆さん喜んでお手伝いしてくださいました。

震災の教訓を踏まえて

岡本さんは公衆電話の普及啓発にも取り組まれていると伺いましたが、どういった経緯でそのような活動をされているのでしょうか。

岡本さん:震災当時は手紙を出すことも難しいし、ポストも焼けてしまって使用できないので、コーヒーを飲んだ方から「姉がここに来たらこう伝えてほしい」「父が来たらここに行くよう伝えてほしい」等、ことづてを頼まれることが増えたんです。そのため、はじめは伝言板を用意して、活用してもらっていたのですが、日本公衆電話会の支部長に状況を伝え、安否確認のために公衆電話を設置してほしいとお願いして、この辺りで最初に設置してもらいました。初めに使った人の「声が聴けてうれしい」という第一声を今でも覚えていますね。生の声を聞くことで、体調や感情等が分かることもあると思います。公衆電話は災害時には避難場所に特設公衆が設けられるほか、通信規制がかかっても優先的に災害用電話としてつながりますし、無料で使用できるというメリットがあります。そのため、公衆電話はスマホが普及した今もなお大事だと思っています。
また、公衆電話の普及啓発のために、現在も子どもたちに対して、公衆電話機の使い方を教える教室を開いています。公衆電話を実際に手に取ってもらって、電話のかけ方や通報の仕方等を学んでもらっています。

人に教えるうえで何か意識していることはありますか。

岡本さん:その時々の季節に合わせた内容を織り込むことを意識して工夫しています。例えば折り紙を教えるとしたら、2月だったら節分の鬼の折り紙にするとか、そういった少しの工夫で興味を持ってもらえるきっかけになると思うんです。また、自分が全てを教えようとするのではなく、教わる側にも意見を求めることで主体的に関わってもらえるし、自分にとっても学びになると思います。全てを自分一人で完結させないことが重要だと思いますね。

震災を経験していない10代・20代にメッセージをお願いします。

岡本さん:自分にできることを背伸びせずに小さなことに一つずつ取り組むこと。他人を批判や非難したりせず、まんべんなく接すること、誰とでも分け隔てなくコミュニケーションをとって仲良くすることを大事にしてほしいです。普段は親切でも、災害時には本音が出ます。困られていらっしゃる方が目につけば、必ず相手に声をかけ、そっと手を差し伸べてあげてください。自分中心で考えるのではなく、お互い助けあう心を皆さんには持ってほしいと思います。

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